「できません」

 秋葉にも演劇の件を誘ってみて見事にきっぱりと断られた夕食中。
 ちなみにその前にはこってりとドロドロとした秋葉の小言が俺の腹を満たしてくれて予想通り食事は喉が通らなかった。

「残念ながら私はそれほど暇じゃありません。誰かさんのせいで登校が大変だったり、
 屋敷に戻ってからも当主としての仕事もあるのにそのような事などしている時間などありません」

「そうか……」

「ハイ。ですから他を当たってください。何ならどこかの劇団を雇いましょうか?」

「いや、さすがにそれは。そこまでやっちゃうともう文化祭じゃないだろ」

 ちょっと大袈裟な秋葉の申し出を俺はやんわりと断った。

「そうですか……なら翡翠と琥珀はどうですか? 二人増えれば少しは違うでしょう」

「秋葉様っ」

 俺より先に後ろにいた翡翠が反応する。上半身だけ振り返って見ると、翡翠は慌てた様子で身を乗り出していた。

「あら、雇い主に何か物言いかしら? 翡翠」

「うっ……」

 秋葉の言葉に詰まってしまった翡翠。それを見て向こう側にいる秋葉と琥珀さんはわずかに口の端を持ち上げている。

「でも秋葉、そうなると昼間は屋敷に誰もいなくなるぞ? さすがにそれはまずいだろ」

「文化祭が終わるまでの間だけ別の家政婦を雇えば済むことです。
 それに、二人も夜には帰ってくるのだから夜の業務は問題ないはずです」

「二人がそれでいいならいいんだけど……二人はやってくれる?」

「もっちろんですよー。楽しみですねー」

「……仕方ありません」

 二人の表情があまりにも対照的過ぎたので俺は苦笑いをするしかなかった。

「ねぇ志貴さん。どんな劇をやるんですか?」

「あぁ、そういえばそれも考えておいて欲しいって言ってたな」

 すっかり忘れてた。部屋に戻ったらそれも考えなければならない。

「もし恋愛物とかでしたらキスシーンとかやるんですかね?」

「!!」

「ん? 秋葉、どうした?」

「……いえ、何も」

 琥珀さんの発言に何やらビクッと過剰に反応する妹。しかし秋葉は何も教えてくれなかった。

「もしあったら私頑張ってヒロインの座を奪い取ってみせますよー」

「アハハ、さすがに本当にキスはないんじゃないかなぁ」

「………………」

 俺の話も半分に、チラチラと秋葉の顔色を窺っている琥珀さん。
 心なしかナイフとフォークを持っている秋葉の手が震えているように見えるのは気のせいだろうか。何かボソボソ言ってるし。

「あの、秋葉?」

「ですから何でもないと言っています、兄さん」

「そうじゃなくて。そんなに細切れにするもんじゃないぞ、ステーキって」

 そう言って秋葉の前にある皿に載っているサイコロよりも小さく刻まれたステーキを指差した。

「………………っ」

 眉をひそめて肉の残骸をしばらく見つめ、「琥珀、これはもう下げていいわ」と一言だけ言ってまたもや何か
 考え事をしたような顔で何か呟いていた。

 もしかして秋葉も心変わりしてやりたくなったのかな?
 俺は…………


 1.「やっぱり劇、やりたくなった?」と聞く
 2.「生理か?」と聞く
 3.秋葉を無視して琥珀さん達と演劇の話をする



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