「なぁシオン、弓塚に投票した残りの二人って誰なんだろう?」
晶ちゃんが秋葉に連れて行かれるのを見送りながら俺はシオンが注文した料理をテーブルに置いて聞いてみた。
「珍しいですね、志貴。貴方がそういう事を気にするのは」
「うん……まぁ。で、何か知ってる?」
「別に隠す必要性はありませんからね。三票のうちの一人は私です」
「あ、やっぱりシオンは弓塚だったんだ」
これはほぼ確定だったから特に驚きはしない。っていうかそうだったから聞いたんだけどね。
「どうして弓塚に?」
「同じチームで演ったからでしょうか」
「でも秋葉も一緒だったろ? 二人の違いは?」
シオンならどっちに投票しても変じゃないと思う。
「確かに。主役の風格でいえば秋葉はこのメンバーの中で一番でしょう。ですが……」
「でも?」
「主役の心情をもっとも理解できるのは誰か、という点でいけばそれは違うかもしれません。一番の理由はそれです」
「…………?」
「それに志貴、貴方は一つ勘違いをしている。まずはそこからの見直しを助言します」
「………………勘違い?」
俺は何のことだか分からずに首を傾げた。それを見てシオンは、
「はぁ……彼女の性格を考えれば分かるだろうに。だから秋葉達に鈍感と言われるのですよ」
とか言ってため息をついて、さっさと一人月夜酒を再開してしまった。何だよ、教えてくれたっていいのに。
そんな事を考えていると後ろから、
「志貴様、こちらの料理をレン様に」
「あ、うん分かった。…………翡翠は誰に投票したの?」
俺はレンのケーキ(これは料理じゃないだろ……)を翡翠から手渡された代わりに聞いてみた。
「主役の投票でしょうか? それなら私は秋葉様に入れましたが」
「へぇ、秋葉か……って秋葉に?」
「はい、何か問題でも?」
「いや、そんな事はないんだけど……」
ちょっと待て。秋葉は明らかに立候補組。それで翡翠が票を入れれば結果の二票に達する。
それはいいのだが……晶ちゃんは秋葉に入れたのではないのだろうか。票の数が合わない。
「…………志貴様、もしかして主役を演りたかったのですか?」
「ぶっ!! な、なわけないだろ! じゃ、じゃあこれ持ってくよ!!」
「はぁ……お願い致します…………」
あぶないあぶない。もうちょっとで変な誤解をされるところだった。俺は脱兎の如く翡翠から逃げ出した。
「レン、ケーキ頼んだろ? 持ってきたぞ」
「………………(♪)」
自分の名を呼ばれて俺の顔を見上げ、次に俺の持っている苺のタルトを見てレンはわずかに表情を緩めた。
そして、無言で皿を受け取ろうと手を出すので俺も皿を手渡そうとしてかがんだ。
「なぁレン」
「?」
「レンは主役を誰に入れたんだ?」
「………………(クイクイ)」
「ん? なぁにレン〜? またお酒付き合ってくれるの〜?」
隣にいたアルクェイドの袖を引っ張るレン。アルクェイドの周りには何種類ものお酒の瓶やら缶やらボトルやらが散乱していた。
今日一日で屋敷のアルコール類がなくなるような気がするんだが………………。
「アルクェイドに入れたのか?」
「(コク)」
「そっか…………」
「ねぇ何なに〜? わたしの話してるの〜?」
てっきり弓塚に入れてるのかもしれないと思ったんだけどな。
「そっか、ありがと。じゃあせっかく作ってくれたんだから美味しく食べろよ」
「(コク)」
「ちょっと志貴〜! 私を無視しないでよ〜!!」
絡まれたら最期、三十六計逃げるに如かずという言葉を脳裏に思い出しながら俺はテーブルを離れてウェイター業に戻った。
「さて、と……」
あと聞いていないのは晶ちゃんに有彦に琥珀さんか。他は立候補組だからな。
それじゃあ次は…………
1.微妙に髪の毛が紅くなっている秋葉の隣にいる晶ちゃんに聞いてみよう
2.「カレーが足りないですよ!」と連呼しているシエル先輩の隣にいる有彦に聞いてみよう
3.厨房で楽しそうに一人怪しげな鍋をかき回している琥珀さんに聞いてみよう
4.………………もう聞かなくてもいいんじゃね?
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