今後の稽古に多大なる影響を与える配役選挙も終わり、家ではちょっとした宴会が始まった。

「だぁかぁらぁ!! 何で私が主役じゃないんですか!!」
「秋葉様。それは壺でございます」

 へべれけになりながら昼間の愚痴を宴会開始直後から漏らしている秋葉が、スケバンよろしくに壺にメンチ切っている。
 でも、昼間の愚痴を言っているのは我が妹だけでなく……

「ちょっと志貴ぃ〜!! お酒足んないわよ〜!!」
「あぁ、ハイハイ只今!」
「ホラ! レンも一緒に飲みましょ。今日は無礼講だから」
「………………(?)」

 俺はお前に礼を払っている人なんているんだろうか、と思いながらアルクェイドは一升瓶を傾けてレンの前に置いてあるワイングラスに注いでいた。何ともまぁ恐れ多い事を。

「あ、遠野君! こちらにもワインをください! あ、乾君。何寝てるんですか! 今日はトコトン付き合ってもらいますよ!」
「せんぱ〜い…………もう無理ですってば………………」

 カレーにワインという滅多に見られない組み合わせのテーブルにはシエル先輩と有彦が独占していた。まぁ今言った三人はそれぞれ
 自分の領土のごとくテーブルを独り占めしているわけだが。

「志貴さ〜ん、こちらが秋葉様の料理でこちらがアルクェイドさんのご注文です。次もつかえてるんですぐ持ってってくださ〜い」
「あ、分かりました! あと琥珀さん、アルクェイドに何でもいいからお酒にシエル先輩にワインを」
「分っかりました〜。ふぅ、忙しい忙しい」

 そう言いながら疲れを見せずに腕の見せ所と張り切る琥珀さんはさっさと厨房へ引っ込んでしまった。

「志貴様、こちらをお持ちします。志貴様は皆様と」
「あ、翡翠。でも一人でこんな中働こうなんて無理だよ。俺は酒はまったく飲めないんだからこういうところで動かないと……」
「いえ、志貴様は曲がりなりにもこの屋敷の長男でいるのですからごゆっくりとくつろいでいてください」
「とはいってもなぁ…………」

 頭を掻きながらホールへと目線を移すと、正直何が何だか分からない。誰がどこにいるのかすら分からない。
 っていうか何であのまま皆帰らずに屋敷でどんちゃん騒ぎなんかしてるんだ?

「人は呑まずにはいられない時があると聞きますが、あの三人にとって今がそのようですね」
「でも……遠野先輩はまだ未成年ですよね」
「貴女がそれを言いますか、晶。実家が実家でありながら呑めないとは言わせませんよ?」
「あ…………アハハ、シオンさんは人が悪いなぁ〜」

 窓際では晶ちゃんとシオンが静かにグラスを傾けている。今日一日で一番珍しい取り合わせではないだろうか。

「遠野君、わたしも手伝うよ」
「……弓塚?」
「弓塚様」

 不意に背中から声をかけられて見てみると、制服姿のままの弓塚が笑顔でこっちを見ていた。

「お気持ちだけで結構です。弓塚様も客人なのですからどうぞ……」
「うん……それはいいんだけど、何かこう…………落ち着かないっていうか」
「翡翠と琥珀さんだけじゃ捌けないと思うよ。何てったって相手はあの三人だから」
「……………………」

 それは翡翠も分かっているのか、表情がわずかに弱気になる。

「俺も弓塚もやりたいって言ってるんだから使ってやってくれないかな?」
「………………本当によろしいのですか?」
「もちろん」「ぜんぜん平気だよ、翡翠さん」

 そうして何とか厨房の琥珀さんも含めて四人でこの惨事を乗り切ろうと一致団結して各自仕事に取りかかった。
 ホールの仕事をしながらふと今日の投票で気になった事があった。それは……


 1.当選した弓塚には誰が投票したんだろう

 2.落選した立候補組には誰が投票したんだろう

 3.気になる事なんてあるかっ! 今はただ己が死力を尽くしてウェイターを務めるのみ!!



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