「さて、と……」

 こうやっていても仕方ない。帰るんならさっさと屋敷に帰ろう。
 俺は鞄を片手に正門へと向かった。

「あ、あの遠野君っ」

「え?」

 正門を抜けようとした時、突然誰かが俺を呼び止める声が聞こえ、
 俺は声のする方へと体を向けた。するとそこには、

「弓塚?」

「う、うん。遠野君、もしかして今帰るところ?」

「あぁ。弓塚は…………って聞かなくても同じだよな」

 ツインテールの髪房を揺らしながら彼女は何が嬉しいのか、はにかみながら答えた。

「もし遠野君が嫌じゃなかったら途中まで一緒に帰ってもいいかな?」

「全然いいよ。そっちこそ俺なんかが一緒でいいの?」

「そっ、そんな事! こっちこそ夢みたいで!!
 むしろ毎日学校行ったり帰ったりしてもいいくらいで!!」

「はぁ……そっか。じゃ、帰ろうか。あんまり遅いと暗くなるし」

 俺はちょっと興奮気味の弓塚をわざと置いてくようにして俺は歩き出した。
 ちょっと経ってから、後ろで弓塚のパタパタと追いかけてくる音が聞こえてきた。

 そうして、二人並んで歩き始めたのだが、

「………………」

「………………」

 何故だろう。さっきまで機嫌のよかった弓塚の空気がちょっとすねたような空気に変わってしまった。
 何と言うか、「むー」とかうなりそうな、ちょっとなんだけど怒ってるような雰囲気で。
 俺が何かしたのだろうか。
 秋葉や琥珀さん達によく鈍いだのなんだの言われているのを思い出して俺は尚更不安になってしまった。

 ……………………。

 ………………………………。

 ……………………………………。

 ……………………………………やっぱ置いて歩いたのがいけなかったのかなぁ。

 どこかでそれは違うぞ、という声が聞こえた気がしたが、自分ではこれ以上何かに気がつけない。
 彼女は何か特別な事でも言ったのだろうか。皆目見当もつかない。

「…………」

「…………」

 まずい。空気が重い。
 ただでさえ帰りを誘ってくれたのに居心地の悪いまま別れるのはちょっとよろしくない。
 何か話題はないか、話題は…………。

「あ」

 そうだ。あるじゃないか。
 つい先刻頼まれ、話の流れによっては助っ人の一人を確保できるかもしれないという格好の話題が。

 問題は聞いてくれても引き受けてくれるかは分からない、という点においてのみだが。
 俺の記憶によると、あんまり弓塚って目立たないようにしてる感があるからなぁ…………。

 それでも、駄目で元々。
 俺は…………。


 1.演劇の話を切り出す
 2.切り出さない



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