「演劇………………ですか?」
「ハイ、そうですよ遠野君」

 茶道室でお茶を飲みながら正面に座っているシエル先輩はいつものニコニコ顔でそう言っていた。
 手にはもちろん、カレーパン。
 何でも文化祭を目の前にせわしなくあっちこっち駆け回って生徒会顔負けの活動をしていたら、
 いつのまにかそんな事を頼まれていたそうなのだ。

「でもよくよく考えればこんな事頼まれても一人でできるわけないんですよねー」
「ないんですよねー、って先輩。よくそんなのん気に言ってられますね」

 話を詳しく聞くと、毎年演劇部員が唯一といっていいほどの晴れ舞台である文化祭で演じていたのだが、
 今年から演劇部が人数があまりにもいないため廃部に近い状態なのだそうだ。
 しかもいる部員も役者ではなく裏方。まったくもってどうしようもない。

「あら、大丈夫ですよ。何て言ったって遠野君が助けてくれるんですから」
「…………」

 先輩、それは反則だ。そんな事言われたら何が何でもどうにかしなきゃいけないじゃないか。

「稽古する時間もありますから、早めにメンバーを集めて開始したいんでお手伝いお願いできますか?」
「はい…………って言いたいところなんでが、俺友達少ないんでまともな奴らが集まるかどうか……」

 そう言いながら俺の頭の中で「友達」で引っかかる人間を思い出してみる。
 乾有彦、以上。
 ……………………。
 ………………………………。
 乾有彦、以上。
 しまった、思わず二回も確認してしまった。
 あんなオレンジ頭が取り柄の旅行マニアに何ができるんだろうか。
 いや、できるような気がしないでもないがそれでも俺と先輩と有彦の三人で演劇なんてできるんだろうか。

「あ、その事なんですが。有志という事で一応校内でも募集もしてるんですが、今回は特別に部外者の参加も許可されているんで」
「え? っていう事はここの生徒じゃなくてもいいって事ですか?」
「ハイ。毎年恒例の舞台をなくすわけにはいきませんから。文化祭ですから多少の事も無理がききますし」

 もしそれでも学校側が渋ったら私が暗示でも何でもかけてオッケーにしてみせますから、と
 ちょっと物騒な言葉を付け加えてシエル先輩は満面の笑みを浮かべてみせた。
 と、


 ――キーーーン、コーーーン、カーーーン、コーーーン


 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「さて、と。とりあえず一旦解散ですね。明日の昼休みにまたここで会議を開きましょう。
 その時に演目やらメンバーやら決まっていればいいですね」

 それは暗に決めてこいと言ってるのではないでしょうか、先輩。

 「どっこいしょ」とでも言いそうな重い腰を上げて、先輩は手際よく湯飲み茶碗を片した。

「それでは遠野君、また明日。楽しみにしてますよ」


 そんな事を言われた昼休みを終えてあっという間に放課後に。
 さて、俺の探す当ては……

1.残ってる学生で誰か知り合いは……
2.繁華街で誰か居ないかな。
3.家に帰って考えよう。




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