「はいカット〜! ありがとうございましたぁ〜!」
「…………ふぅ。疲れました」
「ま、まぁこれくらい何ともないです。楽勝です、楽勝」
「よかったよ、三人とも。お疲れ様」
二人に労いの言葉をかける。見たところシオンが周りを引っ張っていたようにも見えた。
「シオンはすごかったね。いきなりアドリブで指輪出すなんて」
「あの演出は問題ありませんでしたか?」
「全然。おかげで二人とも力が抜けたって感じだったよ」
「……それでは私は無能だったような言い方ですね、兄さん」
シオンを誉めちぎっていたら秋葉の妬ましい視線が横から刺さった。
「あ、いやでも秋葉もよかったよ。なんていうか自然な感じの照れとかが特に」
「本当に仲のいい三人組だったんだ、っていうのが伝わりました。先輩が居たとはいえ他の二人も中々いい縁起でした。ところでさつき先輩、戻ってきませんね」
「あ、そういえば……」
演技によって舞台の袖、つまり廊下にハケていった弓塚。教室のドアに視線をやったが戻ってくる気配はない。
「俺ちょっと見てくる」
そう言って教室のドアを一息に開けた。ところが、右を見ても左を見ても弓塚の姿はどこにもいない。一体どこに…………
「ふぇ〜、遠野く〜ん」
「……弓塚?」
不意に足元から聞こえてくる情けない声。見るとさっきの凛々しい姿はどこへいったのか、ぺたんと座り込んでべそをかいている弓塚の姿があった。
「どうしたの?」
「緊張しっぱなしでいきなり力抜いちゃったから腰が引けちゃって…………」
「…………ハハハ」
これがさっきの人と同一人物なのだろうか。いや、こっちの方が弓塚らしいのかもしれないが呆気に取られてしまう。
「ほら、きっともうすぐ投票するだろうから立って」
そう言いながら弓塚が立ちやすいように手を差し伸べる。
「え………………いいの?」
「いいの、って……何が?」
出された手と俺の顔を何度も見やる弓塚は壊れた玩具みたいだった。
「余計なお世話だっていうんならすぐに手ぇ引っ込めるけど」
「う、ううんっ! ありがとう!」
そう言って誰かに取られるわけでもないのに飛びつくように俺の手を握る弓塚。彼女の手はさっきの緊張で僅かに熱を持っていたが、
それ以上に女性らしい繊細な指の細さが印象的だった。そうして教室に戻ると晶ちゃんが司会を務めていた。
「では色々アクシデントもありましたがこれから配役の投票を始めたいと思います」
「晶ちゃん、どういう風に投票するの?」
「単純に一人一票で誰にどの役をやってもらいたいかを紙に書いて投票してもらいます」
「はいは〜い、それってもしかして全部の役を投票するんですか?」
「そうしようと思っていたんですが主な役だけ投票したいと思います。登場回数の多いかぐや姫におじいさんとおばあさん、
それに帝。この四人だけいこうと思います。他はなんとなく私なりにイメージがあるんで」
そう付け加えて晶ちゃんは一人一人に四枚の紙を配っていく。
「書いたら見えないように紙を二回畳んで翡翠さんの持っている箱に入れてください」
「投票用紙に、回収です」
それぞれに役名が振られている箱を持つ翡翠。それぞれ分けて投票するわけか。
「自分に投票してもいいのですか?」
「はい構いません。その場合は立候補とどこかに小さく書いてください。開票の時に発表はしませんが。ではどうぞ書いてください」
そうして各々机に向かって誰かの名前を紙に書いていく。まずはやっぱりかぐや姫を選ばなきゃな。俺は…………
月.アルクェイドに投票する
空.シエル先輩に投票する
禁.秋葉に投票する
静.翡翠に投票する
動.琥珀さんに投票する
孤.シオンに投票する
儚.弓塚に投票する
幻.レンに投票する
慕.晶ちゃんに投票する
死.有彦に投票する
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