「にゃんにゃにゃ〜ん♪」
「お、お前は……」

 ただでさえ色々と無理のある設定なのに更に混沌と化すナニカ。
 俺達は演技というのも忘れて白煙の晴れた先にいるそいつの姿をはっきりと確認した。

「…………猫?」
「ノー! 我の体は猫であって猫にあらず! この身は世を忍ぶ仮の姿! あいあむざぼーんおぶまい肉球! そう、体は肉球でできている!
 肉球の肉球による肉球のための演技! 今からそれを証明してやろうではにゃいか!!」

 レンの身長の半分以下になったアルクェイドがカオスなテンションで目が合う面々にガッツポーズをアピールしている。と、

「キャアアアアアアアアアアアおばけーーーー!」

 誰かの悲鳴。声の主を探すといつもは余程の事でも動揺しない琥珀さんが恐怖値マックスの表情で叫んでいた。

「にゃ? どうした腹黒割烹着。放課後の学校にトラウマでもあるのかにゃ?」
「いやー! おばけーおばけー! 妖怪猫又ですー!!」
「む、妖怪とは失礼な。このネコアルク、正式名称イリオモテヤマネコアルク、正真正銘の肉球生物である!」

 いや、そこで胸を張って言われても。

「姉さん、落ち着いて」
「翡翠ちゃん翡翠ちゃん! 早くアレ追っ払って! 大丈夫、翡翠ちゃんなら一人でも負けないわ!
 お願いだから途中でお姉ちゃんに交代しようなんて思わないでぇぇぇ22Dはやめてぇぇぇぇぇ援護指示もしないでぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 何やら非常に格ゲーっぽい次元の話をして錯乱している琥珀さん。対してネコアルクは至って普通で、

「そこまで興奮するな腹黒。恐いのは最初だけだぞ? きっと」 「おばけの言う事なんか信じません!」
「頑固なやつだにゃあ。ホレ、一回だけでいいから試しにちょっと触ってみ、肉球。癖になるぞ。なんてったって
 この肉球の持ち主がやみつきにゃんだからな! にゃにゃにゃ!!」

 あぁ、やっぱりコレに「普通」っていう概念はないな……。

「…………(ナデナデ)」
「にゃにゃ? どうした下僕? どっちかっていうとあちしは頭を撫でてもらうより肉球を触ってほしい星の下に生まれてきたんだが」

 今まで何も行動を起こそうとしなかったレンがわずかに顔を緩ませて猫アルクの話を無視して頭をしきりに撫でている。

「…………(ナデナデ)」
「にゃあ下僕、話聞いてるか? ぶっとばすぞー」
「(ナデナデ)」
「……あのぉ、本気ですよ? 僕本気ですよー」
「(ナデナデ)」
「…………にゃあレン。おまいとあちしは一応使い魔とその主人なわけ、ドゥーユーアンダーバスト?」
「(ナデナデ)」
「……………………すいませんレンさん、この不肖な猫の話を聞いていただけないでしょうか?」

 おぉ、という声が教室にどよめく。まさかレンがこの場を納めるとは思わなかった。
 と、周りが安堵しかけた時レンが猫の体を持ち上げてギュッと抱きしめた。

「(ギュウ)」
「おおぅ。これはなかなか……大きいお友達からジェラシーを受けそうだにゃ。萌え」
「(ギュウウ)」
「まだまだ育ちそうな胸とかが当たってて大人なわたしとしては何やら背徳感が…………って下僕、いつまでこうやってるつもりだ?」

 さすがにアルクも我慢がならないのか、少々不機嫌気味にレンに解放の催促をする。
 一分ほど経った後、突然飽きたようにレンがアルクを降ろした。

「まったく、使い魔のくせに調子に乗りやがって……ん? 何か足がムズムズするにゃあ……」

 いやいや、っていうか足元から煙出てるって! アルクー! 煙、煙!

「にゃにゃ! これは対チエル用脚部同化型退却専用ロケット『メシアン殺し』! なぜ下僕ごときがこのスイッチを……!」
「…………」

 レンを睨みながらも猫アルクの足元からはもうもうと煙が噴き出て体もガクガクと震えている。猫アルクが発射されるのは時間の問題だ。

「こうなったら下僕も道連れにするのみにゃ! お前も一緒にほーしーにーなーれー!!」

 言うが早いかレンの足元をすくうようにして飛びつく猫アルク。が、あまりにも直線的な動きのせいでひらりとかわされてしまった。
 そして、発射の時が来た。

「ぬぅぅぉぉぉぉぉおおおぉぉおお! ぶつかるにゃあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!」

 轟音と共にものすごいスピードで締め切った窓目掛けて直進する。

「アルクェイド様を、発射です」

 申し合わせたかのように翡翠がガラ、と窓を開けて障害物を取り除く。

「よしメイド、よくやった。じゃなくてぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇ!」


 ――――ハリウッドに立つ夢がぁぁぁぁぁ……

「…………」

 そうして彼女(?)は星になり、俺達は妙な虚無感に襲われた。



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