「崇ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 俺は何の前触れも無く息子の名前を叫びながら、目の前でくすぶっている頬めがけて拳を殴りつけてやった。

「っ!! 親父! いきなり何すんだよ!!」
「うるさい! 先生が来てくださったっていうのに何だその態度は!!」
「お父さん……」

 息子と先生が俺の顔を見たまま沈黙する。そうして、ゆっくりと仰向けに近かった体勢を直しながら崇が、

「…………俺、イラストレーターになりたかったんだ。でも、誰にも相談できなくて」
「崇君……どうして私に」
「言えるわけねえだろ! きっと皆して大学に行けだのもっとまともな就職でもしろだの反対するに決まってるんだから」

 悔しさに耐えるように拳を固く握る崇。俺は何も言えずにただ有彦の苦い表情を見てるだけしか出来なかった。

「友達も就職や受験の話をしてるのに一人だけ浮いてるような存在に思えてさ……学校なんて行きたくなかった」
「それで誰にも言えずに家に?」

 少しずつ空気が二人だけのものになっていく。

「うん。でも、俺と同じような奴が一人いてさ、そいつと一緒に何か作ろうと思うんだ。アイツは小説とかそういうのが好きで
 俺が絵を描いてゲームでも作ろうとか思ってるんだ。聖杯がどうとか言ってたっけ」
「へぇ……崇君。ちゃんとやりたい事があるんなら先生はそれを応援したいな」
「ありがとう、先生…………。実はさ、俺がイラストレーターになるきっかけになったのって、最初に先生の絵を描こうと思ったからなんだ」
「え?」
「俺、先生が好きだったんだ」
「え、えぇ!? 有彦、それはお前……」

 あまりにもまっすぐな目でシエル先輩に告白する有彦に俺は今の状況など忘れて大きな声を出した。
 すると、空気が変わったように有彦が俺をジト目で見て僅かに唇を動かして、

〈遠野、演技中だろ?〉
 と、のたまった。

「あ………………」

 しまったぁぁぁ……。さっきのセリフも有彦が考えた設定だったのかぁぁぁぁぁぁ…………。

「……ハイ! そこまででいいです! お疲れ様です」

 遠くの世界から晶ちゃんの声が俺達を元いた世界に引き戻す。
 言われて先輩の表情を窺ってみるといつも見せる笑顔で「ドンマイ」と言ってくれたようだった。

「時間はお兄さんがトチった時点で二分ちょっとです。もうちょっと見てみたかったんですが十分演技の方は見れたんで結構です」
「まったく……兄さん。あれくらいで動揺しないでください。それでも遠野家の長男ですか」
「志貴。ちゃんと自分の状況を理解してください」

 うぅ……耳が痛い。

「まぁまぁ。遠野、いきなり殴る所以外はよかったぜ」
「本当、乾君が立て直さなかったらどうなってた事か」
「…………すいません。何かコイツのいじけた顔見たら急に…………」
「お前なぁ、ちゃんと演技だって割り切れよ。にしてもお前はやっぱり年寄りくさい感じが似合うよな。爺さん役決定か?」
「結構出番多そうだからやりたくないなぁ……二人も巧かったからいい配役もらえそうじゃない?」

 チーム内でお互いを誉めたりけなしたりしていると次のチームのエチュードに入るようだった。
 次は…………

 1.アルクェイド達のチームだ

 2.秋葉達のチームだ



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