「このセリフの時のかぐや姫ってどんな事思ってるのかな?」
「ここはお爺さんやお婆さんをおちょくってるんじゃないのか?」
「でもかぐや姫は二人には育ててもらった恩があるんですよ? それを考えたらかぐや姫が二人に馬鹿にするような
 セリフを吐くのはおかしいと思いますよ。それに……」
「おーい。何について話してるの?」

 三人とも台本を片手に各々の意見を交換している中、俺は思い切ってシエル先輩に話しかけた。

「あ、遠野君」
「今ね、三人でここのかぐや姫の心情を考えてたの」
「どこどこ?」

 言われたページ数を見つけ出して大体の内容を把握する。場面は貴公子がかぐや姫の家を出入りするようになってからの
 お爺さんとかぐや姫の結婚の問答についてのくだりだった。

お爺さん「大事な大事なわしの姫よ。姫は人間界のお方ではないがここまで姫を育てた私たちに何か恩返しをしてはくれまいか」
かぐや姫「たとえ貴方が私の実の親でなかろうともどうしてそのような事を拒む事が出来ましょうか。何なりとおっしゃってください」
お婆さん「嬉しい事を言ってくれますね、姫。では申しますが人間界では男と女という者はお互いがお互いと結婚するのが
     当然の常なのです。ですから、姫もどなたかと結婚するべきなのです」
かぐや姫「…………なぜ結婚などしなければならないのでしょうか?」
お爺さん「姫は人間界の者ではありませんが女であります。じいがこうして生きている間は独り身でいられるかもしれませんが
     将来の事を思うとじいは不安でございます。幸いにも五人の貴公子様が姫との結婚を望んでいます。そのどなたかと結婚してはくれまいか」
かぐや姫「私はたいして美人ではありませんから結婚した後で浮気でもされたら騙されたと思って後悔してしまいます。
     どんなに素晴らしい方が私に求婚しても私はそれに応じないでしょう」
お爺さん「ですが貴公子様達はどなたもすばらしい方ばかりでしかも五人が五人とも深い愛情をもってございます。
     ここはじいの顔を立てると思って……」
かぐや姫「…………分かりました。ですが五人の方の気持ちはすべて同じでしょうから優劣がつけられません。
     私が望むものを持ってこれた方をもっとも深い愛情の持ち主と判断してその方の妻となりましょう」


「なるほどね……」
「わたしはかぐや姫が本当に二人の気配りが分からないんだと思ってるんですけどね」
「それはどうして?」

 俺はシエル先輩の強気な主張の真意を確かめようとした。

「だって、かぐや姫は地球人ではなく月星人なのでしょう? それなら地球での慣わしや取り決めなど理解などできるはずないじゃないですか」
「それでも俺はそういう風には思えないんですよ」
「有彦はどうして?」

 先輩の主張を真っ向から否定する有彦の意見としては、

「これから後の展開を見てもかぐや姫は結婚っていう言葉をどうも軽く扱いすぎていると思うんだよ。
 だから二人をどう思ってるとかじゃなくて結婚自体を馬鹿にしてるんじゃないか、って」
「なるほどねぇ」

 セリフの流れからはどちらが正しい解釈なのか分からない。奇しくもお互いに説得力はある。
 俺は最後に弓塚に尋ねた。

「弓塚はどう思う?」
「う〜ん……ちょっとよく分かんない。なんていうか、シエル先輩と乾君の両方が正しいような気もするし……」
「でもそれって変じゃないか? 先輩は知らない上で分からないって言ってるのに、俺のは意図的に分からないって
 言ってるんだから」
「……………………う〜ん」

 四人とも頭を揃えてうんうん唸る事しかできなくなってしまった。
 ここらでもう結論づけるしかないのではないだろうか。

 俺は……

 1.先輩の意見を推す

 2.有彦の意見を推す

 3.折衷案を取る


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